フィールドは九州、魂は人吉・球磨

地図と記憶に残るモノづくりの会社

 

　現場事務所で取材の待ち合わせ。笑顔で現れたのは入社3年目の谷口梨紗さん（25歳）。

「父の影響で現場での仕事に憧れがありました。私も外で体を動かして働きたいと思い、この会社に入社しました」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

　建物が設計図面と合っているか、工事がスケジュール通りに進んでいるか、などを確認する現場管理の仕事。「業務の一連の流れは共通でも、現場ごとにやるべきことや注意すべきことが違う。新しい現場に携わるたびに勉強です」。

　学生時代の専攻は福祉系だが、「専門知識は入社してからでもしっかり身につけられる環境。専攻を問わず、1人の技術者として育ててもらっていると感じます」。

　目標は、早く1人で現場を任せてもらえるようになることだという。取材時に外していた腰袋を再び身に着けると、一気に引き締まった顔になった。

　熊本県内をはじめ、九州各地で大規模な公共・民間工事案件を手がけ、総合建設業としての信頼を築いてきた。代表取締役の松村陽一郎さん（61歳）は「新分野への展開とそれに対応できる人材の育成に注力してきました」。

　32歳で現職に就任。バブル崩壊後やリーマンショック時の難しい舵取りを迫られながらも、「大胆かつ細心」という座右の銘を胸に会社の歴史を繋いできた。この言葉は、「可能性に大胆に挑戦し、細心の心配りで確かなモノ作りに励む」という会社のスピリッツでもある。

　自然災害が多発する昨今。2016年の熊本地震に続き、2020年の豪雨災害ではこの人吉・球磨が甚大な被害に見舞われた。傷ついたふるさとを前に、丸昭建設は社を挙げて災害対応の最前線に立った。「発災時、地元に精通した建設会社があることのメリットは言うまでもありません。我が社だけでなく、地域全体の建設業者が健全に存続していくことが、地域の安心安全な暮らしに不可欠だと考えています」。

　丸昭建設に入社を希望する人の中には、「災害復旧や災害に強いまちづくりに関わって社会に貢献したい」という人も少なくない。常務の松村健由さん（32歳）によると、熊本地震や豪雨災害の実体験がきっかけになっている学生もいるという。

　「先の豪雨災害でも流木や泥で寸断した道の啓開や一部流出した橋の応急復旧などに携わりました。例えば人吉市の西瀬橋（写真上）の応急復旧は、24時間体制で取り組んだ工事の一つ。近隣の小学校の主要な通学路とあって、夏休みにあたる2カ月余りで工事を完了させました。道を通すことで、その道の先にある人命と暮らしを守っている。今後もそんな自負と使命感を持って仕事に向き合っていきたいと思います」。

　熊本市出身の長島希世紀さん（23歳）は工業系の高校を卒業し、現在入社5年目。近頃、自分が1年前に携わった現場の近くを通る機会があり、「ちょっと感慨深かった」と話す。地図と記憶に残るモノづくりは、この仕事の醍醐味の一つだ。

　高校時代は陸上部。現在、出場予定の熊本城マラソンに向けてプライベートの時間はランニングに費やすことが多いという。「週休2日の現場も増え、働きやすい環境になっていると思います」。

　中途入社した社員も活躍している。土木部の山田卓司さん（35歳）は、キャリアアップを目指して1年前に入社した。「中途で業界未経験でもチャレンジさせてくれる社風を感じました。日々成長の手応えを感じており、思い切って飛び込んでよかったと思っています」。

　平日は単身で人吉市に暮らし、週末は妻と3人の子どものいる合志市で過ごす。「今まで人吉にはほとんど足を運んだことがありませんでしたが、とても住みやすいですね。家族で人吉に移住してきてもよさそうです。あ、これはまだ妻と相談していないので大きな声では言えませんが(笑)」。

　創業から65年を超えた。事業フィールドは今や九州全域に広がり、土木工事の実績は県内トップクラス。それでも本社を熊本市や福岡市に移すことはしなかった。「私たちのベースはあくまでこの人吉・球磨です」。今後もこの地で、モノづくりへの情熱を持った技術者を育てていく。